まひなおしのみ 〜Pinoのきままな雑記帳〜

「クルトOTKのススメ。」移転先です。その他転鳴エルヴィ配布所などなど

短編小説(?)

※ この話は、実話を元にしたノンフィクションですが、
実在する人物の名前はハンドルネームに変えています。


「走れピロピーノ!〜大雨を潜って〜」

ピロピーノは呆然とした。
朝の天気予報であれだけ大雨が降るといっていたのに。
彼は折り畳み傘を持っているものだと思っていた。
しかし、いざ悪雲が立ち込めたとき、彼は焦った。
…傘が無い。
そう、彼は家に大切な折り畳み傘を忘れてしまったのだ。
ああ、よりによって何故こんな日に、傘を忘れてしまうのだろうか。
昨日は小降りでも差していたというのに。

電車の中で、雨が降らないことを祈る。
しかし、祈りは届かず、目的地に近づくにつれ雨の強さは増していく。
…空が光った。雷だ。
もはや濡れずにすぐ帰るのは無理だと悟った。
彼は、もう一度リュックをあさる。
しかし、無いものを探したって見つかるわけがない。
リュックの中には無常にも、折り畳み傘を入れる袋だけが入っていた…。

駅には、当然の如く傘を持っている人がたくさんいた。
傘を持っていない人も、駅の出口でケータイを使っている。
彼はケータイというものを持っていなかった。
彼はケータイの代わりに、パソコンを選んだのだ。
よって、彼は暇つぶしをできるものすらなかった。
彼が持っている機械といえば、チューナーとメトロノームぐらいであった。
ピロピーノは呆然とした。
このまま雨が止むのを待つという手もあった。
しかし、今日は大切なピアノレッスンの日である。
何もしないでみすみす時間を削るよりかは、無理をした方がいいだろう。
彼はこういう無駄なことに関してだけは、やって後悔するタイプであった。
それ以外のことは、変わることを嫌がった。
しかし、この決断は無駄なことだったのだ。

彼は意を決して、雨の降り注ぐ中を駆けていった。
しかし、そんな彼の無駄な行動を、雷雲は許してはくれなかった。
雨の強さは増し、彼を焦らせた。
彼はひとまず近くのマンションの屋根へと逃げ込んだ。
彼は思わず、「嘘だろ?」と叫んだ。

…雨は止まない。
それどころか、だんだん雨脚が強くなっている気がしてならない。
彼は、暇なときに関してだけは短気であった。
一分が三分に感じるほど短気であった。
彼は寝ることが好きだ。
しかし、寒く、雨の音がするこの中で、とても寝てはいられなかった。
彼は、この日三度目の雷の光を合図に、大雨の降る道路へと飛び出していった。

雨は容赦なく彼を襲った。
いつもの通学路は凸凹しており、たくさんの水溜りができていた。
ピロピーノは水溜りをかわしながら、家路へと急いだ。
しかし、この辺りには屋根が無かった。
彼はひたすら走った。
途中木の下を通ったが、雨は容赦なく木の葉を潜り抜けてきた。
雨がしょっぱい。海水でもないのに、雨水はしょっぱかった。
彼は屋根を気にせずに走った。
そして、ようやく近くの消防署にたどり着いた。
ちょうどそのとき、本日四度目の雷が光った。

ピロピーノは、水と電気の属性を持つ。
昔は、虫が好きだった。特に、蟻の行列を見るのがとても好きだった。
彼はやがて木登りを始めた。しかし、そのうち彼は高いところが苦手になった。
その後、彼は水が好きになった。水を飲むことをこよなく愛した。
泳ぐことも好きだった。しかし、彼がプールに入る機会を失ったとき、彼は水から遠ざかった。
そして、電気も好きになった。画面を見ながら、赤い帽子を被った男を操り、旗を目指して走り回った。
セーターを脱ぐときにも、静電気がよく起きていた。
彼は、麦茶が好きだ。家で母親が作る、あの麦茶が好きだ。
彼は水から遠ざかりながらもなお、水と友達であった。
だから、彼は水と電気の属性を持つのだ。
彼は、雷が恐かった。ひとりぼっちで部屋にいるとき、雷が鳴ると恐くて泣き出すこともあった。
しかし今では、大雨の中を走ることに、少しばかり快感を覚えている。
今回意を決したのは、そのせいかもしれない。
彼は五度目と六度目の雷がぴかぴかっと二度光ったとき、消防署から駆け出した。

彼は、この先屋根が続くことを知っていた。
ここなら、雨が強くても平気だ、そう思ったのであろう。
しかし、彼は大きな過ちを犯した。
屋根で雨をしのぐまではよかったが、屋根からは大粒の雫が屋根から出るものを拒んでいた。
ピロピーノは、やむなく雫の攻撃を受け、先を急いだ。

彼は、団子屋の屋根に飛び込んだ。
そして、濡れた制服と髪を持っていたタオルで拭いた。
と、そのとき、七度目の稲光と同時に、辺りに物凄い音が鳴り響いた。
彼の心に安心感と焦りが見えた。
さすがにこの雨の中を走る気にはなるまい。
彼は、しばらくそこで雨宿りをすることにした。
しかし、彼は短気であった。
彼には雨が止むまで待つことはできなかった。
家が近いのに、こんなところで立ち止まってなるものか。
彼は雨の音が少し弱くなったのを見計らって、雨の中を駆けていった。

ピロピーノの判断は間違っていた。
彼の通学路は、もはや足の踏み場が無かった。
なぜなら、そこは上り坂であったからだ。
道路は水で溢れ、彼の靴は水浸しになってしまった。
追い討ちをかけるように、雨は再び激しさを増した。
さすがに彼の体力も限界が近づいてきた。
彼は近くの団地へ避難した。

再び、タオルで濡れた服を拭いた。
しかし、もうすでに制服は水を吸っていた。
絞れば水が出るほどである。
ふと気づくと、ピロピーノは頭がクラクラしていた。
熱でも出たのだろうか。明日学校へ行けるだろうか。
そんなことが頭をよぎった。
しかし、今家にたどり着かないことには、話は始まらない。
彼は意を決して、ラストスパートにはいった。

とにかく彼はがむしゃらに走った。
最高スピードなんて出せるわけが無い。
しかし、平均の速度がMAXになるように、彼は走った。
途中屋根に避難しようとした。しかし、地図の看板がそれを拒んだ。
彼の残りの道はずっと上り坂であった。
彼の体力はもはや限界がきていた。
彼はついに走ることをやめ、家に向かって歩き出した。
そして階段をゆっくりと登り、ついに自宅のあるマンションの屋根の下へとたどり着いた。
よく頑張った…。そして、物凄い馬鹿だな…。
彼は自らを称えた。
そして、彼はゆっくりと、自宅へとつながる階段を登っていった。
ちょうどそのとき、十一度目の雷が鳴った。
自宅のドアの前には、彼の折り畳み傘がかけられていなかったのである。

〜あとがき〜


…というわけで、大雨の中走ってきました(ぉぃ
当然、ピアノには行けず。
でも、楽しかったです(ぇ
ひそかに上の小説はギャグ小説だったりする(なってないって